大阪地方裁判所 昭和51年(行ウ)47号 判決 1980年5月21日
豊中市圧内西町二丁目九番二一号
原告
森井千代子
訴訟代理人弁護士
永岡昇司
池田市城南二丁目一番八号
被告
豊能税務署長
近藤弘
指定代理人検事
片岡安夫
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める判決
一 原告
被告が原告に対し、昭和四五年分及び昭和四七年分の所得税について昭和四九年六月一五日付でした再更正処分及び重加算税賦課決定処分、並びに昭和四六年分の所得税について昭和五二年三月八日付でした再々更正処分及び重加算税賦課決定処分のうち、いずれも昭和四九年三月一二日付更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の額を超える部分を取り消す。
被告が原告に対し、昭和四八年分の所得税について昭和五二年三月八日付でした更正処分及び重加算税賦課決定処分が無効であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨の判決。
第二当事者の主張
一 原告の請求原因
(一) 原告は、昭和四五ないし同四八年分の所得税について確定申告をしたところ、被告は、別表第一の経緯を経たうえ、請求の趣旨第一項記載の(再又は再々)更正処分及び重加算税賦課決定処分(以下本件処分という)をした。これら申告、更正等の経緯、内容は別表第一に記載のとおりである。
(二) 本件処分は、所得を過大に認定した違法があり、昭和四八年分の本件処分の違法は、重大、明白である。
(三) 結論
原告は、昭和四五ないし同四七年分の本件処分のうち、いずれも昭和四九年三月一二日付更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分の額を超える部分の取消しを求め、昭和四八年分の本件処分の無効確認を求める。
二 請求原因に対する被告の認否
請求原因(一)は認み、同(二)は争う。
三 被告の主張
(一) 原告の昭和四五ないし同四八年分の所得金額、税額、及び重加算税額は、別表第二に記載のとおりである。
(二) 雑所得
原告は、訴外東南商事株式会社(以下東南商事という)に対し、昭和四四年以前に、金六五〇万円を、さらに昭和四六年六月二一日、金三〇〇万円をそれぞれ貸し付けた。
原告は、東南商事から、別表第三に記載のとおり右貸付金の利息を収受したから、原告には同額の雑所得があつたことになる。
なお、原告には、昭和四六年中に、このほかに金一七万四、〇〇〇円の雑所得があつた。
(三) 資産所得合算のあん分税額の計算
原告と訴外森井武雄とは、夫婦であつて、昭和四五年より同四八年までの間、生計を一にしていた。森井武雄には、その間に、別表第四に記載のとおり不動産所得などがあつた。
そこで、所得税法九六条ないし九九条、一〇一条(資産所得合算課税の規定)に基づいて、原告を主たる所得者、森井武雄を合算対象世帯員として原告の昭和四五ないし同四八年分の納付すべき税額を計算すると、別表第二に記載の金額になる。
(四) したがつて、この範囲内でされた本件(再又は再々)更正処分は適法である。
(五) 本件重加算税賦課決定処分の適法性
(1) 原告は、被告の職員の税務調査に際し、右貸付金の利息が自己の所得でない旨の虚偽の答弁をした。
(2) 原告は、昭和四六年一二月一五日から昭和四七年八月二八日まで、奈良県宇陀郡榛原町大字桧牧九一番地の二に転出した旨の虚偽の住民登録をするなど、資産所得合算対象者でないように仮装してその所轄税務署に昭和四五ないし同四八年分の所得税について分離申告をした。
(3) 原告は、右住民登録の結果、原告の所轄税務署が森井武雄と異なるようになることを利用し、森井武雄が昭和四六村分及び同四七年分の確定申告で青色事業専従者とした原告の母訴外前阪ヤスエを、右各年分とも扶養親族として確定申告をした。
(4) このように、原告は、課税標準又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装又は隠ぺいし、これに基づいて確定申告をしたものであり、本件重加算税賦課決定処分の重加算税額は、別表第二に記載の重加算税額の範囲内であるから、同処分は適法である。
四 被告の主張に対する原告の認否と反論
(一) 被告の主張(一)の各金額を争う。
原告の昭和四五ないし同四七年分の所得金額及び税額は、別表第一に記載の昭和四九年三月一二日付の更正処分の金額でである。
(二) 同(二)のうち、原告には昭和四六年中に金一七万四、〇〇〇円の雑所得があつたことは認めるが、その余の事実は否認する。
原告は、被告主張の金六五〇万円の貸付には全く無関係であつて、その利息を収受したことがない。
被告主張の金三〇〇万円の貸付金の貸主は、訴外佐藤かをるであり、原告は、その仲介者である。すなわち、佐藤かをるは、森井武雄経営の貸マンションの入居者であつたが、右貸付当時既に同マンションを出て大阪市中津に住んでいた。原告は、佐藤かをるから適当な借主を紹介するよう頼まれていたため、右貸付の仲介をしたにすぎない。
(三) 同(三)のうち、原告と森井武雄とが夫婦であり、昭和四五年より同四八年までの間、生計を一にしていたこと、森井武雄には、その間に、別表第四に記載のとおり不動産所得があつたことなど資産所得合算税額の計算の根拠となるべき事実は認める。
(四) 同(五)について
(1) (1)のうち、原告が、被告の職員の税務調査に際し、被告主張の貸付金の利息が自己の所得でない旨の答弁をしたことは認めるが、その余の事実は否認する。
右利息は、原告の所得ではないから、原告は、その旨を述べたにすぎない。
(2) (2)のうち、原告が、被告主張の間、被告主張の所に住民登録をしていたこと、原告が、被告主張のとおり分離申告をしたこと、以上のことは認めるが、その余の事実は否認する。
原告が右住民登録をした理由は、原告の亡父が残した田地を管理することにあつた。
(3) (3)のうち、森井武雄が原告の母前阪ヤスエを青色事業専従者として昭和四六年分及び同四七年分の確定申告をしたこと、原告が前阪ヤスエを右各年分とも扶養親族として確定申告をしたこと、以上のことは認めるが、その余の事実は否認する。
右重複は、結果的に生じたにすぎない。
第三証拠関係
本件記録中の証拠関係目録に記載のとおりであるから、ここに引用する。
理由
一 課税の経過
原告の昭和四五ないし同四八年分の所得税について、請求原因(一)のとおり確定申告、更正処分等がされたことは、当事者間に争いがない。
二 不動産所得
原告に昭和四五ないし同四八年に、被告主張の額の不動産所得があつたことは、成立に争いがない乙第五ないし第七号証及び弁論の全趣旨により明らかである。
三 雑所得
(一) 原告には、昭和四六年中に一七万四、〇〇〇円の雑所得があつたことは当事者間に争いがない。
(二) 貸金利息による雑所得
1 証人下村智恵子及び同下村年正の証言によつて成立が認められる乙第一号証の一ないし三、同第二号証の一ないし三及び同第二二ないし第二四号証、成立に争いがない同第三一号証及び同第三二号証の一、二、弁論の全趣旨によつて成立が認められる同第三三号証、証人下村智恵子及び同下村年正の各証言並びに弁論の全趣旨によると、次の事実を認めることができる。
(1) 東南商事は、昭和四四年以前に金六五〇万円を、昭和四六年六月二一日金三〇〇万円を、利息月四分の約束で原告から借り入れ、その借り入れの証として、東南商事振出しの約束手形二通を原告に交付した。
(2) 原告は、昭和四五年より同四八年までの間に、東南商事より、(1)の貸付金の利息として、別表第三記載のとおり日時に、同表記載の各金員の支払いを受けて、これを取得した。
(3) 東南商事は、昭和四八年九月六日、原告に対し、(1)の借入金九五〇万円を現金で弁済し、交付してあつた約束手形二通の返還を受けた。
(4) 東南商事は、昭和四八年九月五日、訴外株式会社日証に対し、極度額を金三、〇〇〇万円とする根抵当権を、その所有の不動産(豊中市名神口一丁目五七番一 宅地八一三・二二平方メートル及びその地上の倉庫兼事務所)に設定したうえ、同日、株式会社日証より金一、〇〇〇万円を現金で借り受けた。東南商事は、この借受金で(3)の弁済をした。
2 証人森井武雄の証言及び原告本人尋問の結果中には、(二)1(1)の金三〇〇万円の貸付は佐藤かをるが行つたもので、原告は東南商事が支払つた毎月金一六万円の利息のうちから金二万円を取得したにすぎないとの供述部分がある。
しかし、これらの供述部分は、前記認定事実と対比して信用することができないばかりか、次の点を考慮すると採用できない。
(1) 「佐藤かをる」という者がどのような人物であるかが、原告、森井武雄の各供述その他によつても明らかではない。
右両名の各供述では、佐藤かをるは森井武雄の経営するアパートの賃借人であつたという。しかし、佐藤かをるが、そこに入居していた期間について、原告は、金三〇〇万円貸付の際及び森井武雄への更正処分のあつた昭和四九年三月ころ、いずれもそこに入居していたと供述したが、森井武雄は、佐藤かをるの入居期間は一年近くであつたと証言している。また、原告の主張では、金三〇〇万円貸付当時には大阪市中津に住んでいたことになる。このように、両名の供述は、曖昧であり、食い違つている。
(2) そのうえ、原告の本人尋問の結果によると、原告は佐藤かをるの現住所を知らないというのである。もし原告が佐藤かをると東南商事との間の仲介をしたに止まるものであれば、原告は昭和四九年九月に東南商事より三〇〇万円の弁済を受けたのち、これを佐藤かをるに渡した筈であり、そのときまでには原告に対し再更正処分が行われていたのであるから、原告としては同人の所在については関心があつた筈である。
したがつて、原告が佐藤かをるの現住所を知らなかつたということは、却つて原告本人の供述全体を疑わせるものである。
(3) 原告と佐藤かをるとの仲介関係についての、原告本人、森井武雄の各供述は、具体的明確性を欠き、客観的証拠の裏付けがない。
(4) 証人下村智恵子の証言及び原告本人尋問の結果によると、原告は、東南商事の代表者等に対し三〇〇万円は他の者からの仲介による貸付であるとは述べていないこと、原告は利息の支払を求めるに当つて原告自身の支払いの都合を理由としたことがあること、原告は(二)1(3)のとおり弁済を受けた際、その場で、(二)1(1)のとおり預つていた約束手形を東南商事に返還したこと、以上のことが認められる。
そして、これらの事実は、原告が貸付の仲介をしたものでないことをうかがわせる。
3 証人森井武雄の証言及び原告本人尋問の結果中には、(二)1(1)のような金六五〇万円の貸付と利息受領をしたことはないとの供述部分がある。
しかし、これらの供述部分は、以上の認定、判断と対比して信用することができないばかりか、次の点を考慮すると採用できない。
(1) 右供述部分は、いずれも、仲介か否かは別として、金三〇〇万円の利息受領額、年月日、元金弁済時の状況などの点で具体性に欠けるところが多い。
それに比して、証人下村智恵子及び同下村年正の各証言は、これらの点について具体的であり、特に元金弁済資金の出所については信用すべき証拠によつて前記(二)1(4)のとおりの事実が認められるのである。
(2) 前記2のとおり、原告本人及び森井武雄の各供述中には信用できない部分があることは、他の供述部分の信用性をも疑わせる原因になる。
4 まとめ
以上の次第で、原告は、別表三記載のとおり東南商事から利息の支払いを受けたのであるから、これらは当該各年分の原告の雑所得金額を構成し、結局原告には被告主張のとおりの雑所得があつたことになる。
四 更正処分の適法性
原告の不動産所得、雑所得は前記判断のとおりであり、その余の資産所得合算の税額計算の根拠となる事実は当事者間に争いがない。
そうすると、本件処分のうち(再又は再々)更正処分は適法であつて、この取消し又は無効確認を求める原告の請求は理由がない。
五 重加算税賦課決定処分の適法性
(一) 成立に争いがない乙第五ないし第七号証、証人中島貢の証言及び弁論の全趣旨によると、原告の昭和四五ないし同四八年分の所得税の申告の内容は別表第一のとおりであつて、これには利息収入による雑所得が除外されていること、原告は本件処分前の被告の職員の調査に際し、その職員に東南商事に貸された金三〇〇万円について原告は仲介をしただけで利息収入を得てはおらず、そのほかに六五〇万円を東南商事に貸したこともないと供述したこと(原告が税務調査の際、利息収入がないと答弁したことは当事者間に争いがない)、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。
(二) この事実と前記認定の事実とを併せ考えると、原告は故意に課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき申告書を提出したものであるというほかはない。
(三) そうすると、本件処分のうち重加算税賦課決定処分は適法であつて、この取消し又は無効確認を求める原告の請求は理由がない。
六 結論
原告の請求は、すべて理由がないから、棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 小佐田潔 裁判官井関正裕は填補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 古崎慶長)
別表 第一 課税の経緯
<省略>
別表 第二 所得金額、税額及び重加算税額
<省略>
別表 第三 受取利息の一覧表
<省略>
別表 第四 資産所得合算のあん分税額計算表
<省略>